「ダメ、入ってきて…」が止まらない

カーテンの隙間から、街の明かりが薄く差し込んでいた。
11階の静かなホテルの部屋。
窓の外に広がる夜景は、ぼんやりと滲んで、
まるでこの空間だけが時の流れから切り離されているようだった。

冷房の送風口から、一定のリズムで吐き出される空気。
白く整ったリネンの上に、私は躯を横たえていた。
薄いワンピースの裾が少しだけ捲れ、膝のラインが浮き出る。

「すごく綺麗ですよ、このまま」
低く抑えた声が、耳のすぐ近くで響く。
彼の視線が触れるだけで、
呼吸の深さが微かに変わっていくのが自分でも分かる。

オイルの香りが、空気の温度に混ざる。
ほんのり甘くて、少しスパイスを帯びたような香り。
その香りに包まれて、彼の手が私の太ももに触れた。
肌の上を流れていく指は、ぬるりと温かく、
まるで私の内側の“音”を聞いているような動きだった。

「やわらかいですね。呼吸が通ってる感じがする」

囁きながら、
彼はふくらはぎから膝裏へ、そして内ももへと
ゆっくり、慎重に手のひらを這わせていく。

指先が、ほんの一瞬、太ももの付け根に沈んだとき――
私は喉の奥で息を吸い込み、
反射的に腰をわずかに引いてしまった。

「……ごめん、そこ、ちょっと」
「大丈夫ですよ。いやだったら、やめます」

彼の手はすぐに離れた。
でも、それが逆に――いけなかった。

触れられた一瞬よりも、
触れられていない“余白”のほうが、
何倍も熱く残ってしまう。

 

空気が変わる。
少しの沈黙と、次の動作を待つ気配。
私はわずかに身体を起こし、タオルを少しだけずらした。

「……やめたほうが、いいよね」

そう言いながら、指先がタオルをつまんでいた。
やめたい。けど、やめられない。
その矛盾が喉元までせり上がって、呼吸に混ざる。

彼の指が、またそっと近づいてくる。
今度は何も言わずに、
タオル越しにそっと下腹部のラインをなぞった。

 

ビクンと反応した腰を、私は必死で止めようとした。
でも、止まらなかった。
タオルの下で、身体が勝手に受け入れていく。

「……ダメ」
口ではそう言っているのに、
脚の角度が、拒んでいなかった。

「ダメ…入ってきて……」

自分の口からこぼれたその言葉に、
私は一瞬、目を閉じた。

まるで、欲望そのものが口を借りて喋っているようだった。

 

彼の手は、入ってこなかった。
ただ、タオルの上から、ゆっくりと撫でるだけ。
それなのに、全身が跳ねて、
頭の奥がしびれて、
目の奥が潤んでいく。

“入ってないのに、壊れていく”。
そんな状態が、何度も波のように訪れて、
私はベッドにしがみつくしかなかった。

 

窓の外の光が、少しずつ角度を変えていく。
部屋の中の温度は変わらないのに、
身体の奥だけが火照りきっていた。

最後に彼がそっとタオルを戻し、
静かに告げた。

「また、入ってこない夜を、しましょうか」

私は黙って、目を伏せた。

それでも、喉の奥に、
“また壊して”という言葉がずっと張りついていた。