「感じてるの、バレちゃうよ」

「感じてるの、バレちゃうよ」

車の中は、予想以上に静かだった。

エンジンの振動だけが、車体の底を小刻みに揺らし、
ダッシュボードに差し込む街灯の光が、一定のリズムで肌を照らしては消えていく。

後部座席。
運転席との間に薄いカーテンが引かれているだけの、簡易な仕切り。
彼は、私の隣に静かに座っていた。

「ホテルじゃないの、なんだか落ち着かなくて…」
そう伝えた私に、彼はすぐこう言った。

「じゃあ、ちょっとだけ。気配のする場所で、してみましょうか」

“気配のする場所”。
その言葉がずっと耳に残っていた。

 

彼の指が、私の手の甲にそっと触れた。
握るでも、撫でるでもなく、ただそこに置かれるだけ。

それなのに、心臓が跳ねる音が、車内に響いてしまいそうだった。

「緊張してる?」

彼がそう言って、私の肩に手をまわす。
ひんやりしたレザーシートが背中に触れて、妙に硬く感じる。
けれどその硬さが、どこか安心でもあった。

――逃げ道は、ない。

 

ワンピースの布地の上から、彼の指が肩口をなぞっていく。
車内の暗さに目が慣れる頃、
私はもう、軽く息を呑んでいた。

「感じてるの、バレちゃうよ?」

そう囁かれた瞬間、
私の脚が、わずかに震えた。

見られていないはずなのに、
誰かに“見られているかもしれない”という空気の圧が、
肌にじっとりとまとわりついてくる。

 

彼の手が太ももに触れたのは、次の瞬間だった。
膝から内側へ。
それも、ゆっくりと、なぞるように。

窓の向こうに、コンビニの光がにじむ。
誰かが、すぐそこにいるかもしれない。

でも彼は、まるでそれを楽しむように、
私の脚の内側をさらに撫でてくる。

 

「声…出そうになってるよ」
「ほら、今、口、開いてる」

その言葉が刺さるように響く。
身体は、反応を止められない。
でも声にしてはいけない。
だから、苦しい。

ワンピースの裾を少しだけ捲られたとき、
私は小さく身を捩った。
止めるためじゃない。
止まらないことを、ごまかすため。

 

「ねえ、感じてるのって、そんなに恥ずかしいこと?」

彼の声は、驚くほど静かだった。
まるで図書館のなかで、誰かの耳元だけに届くようなトーン。

私は何も言えなかった。
ただ、手のひらで口元を押さえて、
息が漏れる音だけを殺すことに集中した。

車の中。
夜の街。
仕切り一枚の向こうに、運転手。

“見られてない”という保証が、どこにもない。
その不確かさが、
かえって私の身体を敏感に研ぎ澄ませていく。

 

「バレちゃったら、どうする?」
「……もっと濡れちゃう?」

言葉だけで、心拍数が跳ね上がる。
脚の付け根が、勝手に反応してしまう。

“バレたら困る”。
でも、“バレてみたい”。

そんな相反する感情が交錯する中で、
私は自分の指を、静かに彼の手の上に重ねた。

「…もう、いいよ。触れて」

その一言が、
車の中でいちばん大きな音だった。