「その夜、私は“女”に還った」—15人の女性、15の秘密の夜 第6話  セラピストは、10歳年下だった

セラピストは、10歳年下だった

「失礼します」
そう言って現れた彼を見て、私は一瞬、息をのみかけた。

思っていたよりもずっと若い。
輪郭のはっきりした顔立ちに、どこか少年のような無邪気さが残っていて――
でもその中に、何かを試すような鋭さが潜んでいた。

年下。
それだけで、こんなに心が揺れるなんて思わなかった。
けれど彼は、そんなこちらの戸惑いを知ってか知らずか、
穏やかな微笑みを浮かべて言った。

「緊張されてますか? 大丈夫ですよ、ゆっくりいきましょう」

その言葉に、不思議と肩の力が抜けた。

 

バスローブに着替え、タオルをかけられたままベッドに横たわると、
彼の手が、ふくらはぎのあたりにそっと触れた。

温かく、しなやかな指。
押すでもなく、撫でるでもなく、
まるで“会話”を始めるような、探るような優しいタッチだった。

「冷えてますね。お疲れ、溜め込んでる感じです」

言葉と一緒に、手が膝の裏へと動く。
そこに何かを感じたわけじゃない。
でも、なぜか呼吸が少し浅くなったのを、自分でわかってしまった。

年下の彼が、
自分の身体に触れている。
その事実だけで、じんわりと奥が揺れる。

 

「こうされるの、好きですか?」

問いかけは、あくまで自然だった。
マッサージ師としてのプロの言葉。
なのに、それがどこか“試されている”ようにも聞こえて――
私は、曖昧な笑みでごまかすしかなかった。

彼の手は、ゆっくり太ももに向かって動いていく。
まだタオルの上から。
それでも、その熱はまっすぐに伝わってきた。

言葉にできない感覚。
触れられていない場所まで、
なぜか火照っていくような不思議な感覚。

「少しだけ、タオルをずらしてもいいですか?」

その言い方が、あまりに丁寧で――
私はなぜか、許してしまった。

 

彼の手が、内もものきわをなぞったとき、
小さな震えが背中から抜けた。
それは、くすぐったさではなかった。
どこか懐かしいような、でもまだ知らない感覚。

「年上の女性って、肌が柔らかいですね」
「こうして触れてると、時間を忘れます」

そう言う声は、冗談のようで、どこか真剣だった。
私はその視線から逃げるように、目を閉じた。

でも逃げた先には、彼の呼吸が近づいていた。
耳元でふっと吐かれる息。
肩に落ちる気配。
そのどれもが、やけに深く体の奥に残っていく。

 

不意に、彼の指が手のひらを重ねてきた。

「こうしてると、…なんだか、もっと触れてみたくなりますね」

その声に込められた熱は、
ぎりぎりの境界線を、確かにくすぶらせた。

けれど彼は、それ以上を求めてこなかった。
肌の奥に火をつけたまま、
そっとタオルを整え直すと、
「また来てくださったら、続きを」とだけ言った。

その余韻が、帰り道ずっと、指先に残った。

私はこの夜、
一度も唇を重ねられていない。
けれど――
彼の手のひらだけで、
女の部分が、そっと、目を覚ました気がしていた。