「失礼します」
そう言って現れた彼を見て、私は一瞬、息をのみかけた。
思っていたよりもずっと若い。
輪郭のはっきりした顔立ちに、どこか少年のような無邪気さが残っていて――
でもその中に、何かを試すような鋭さが潜んでいた。
年下。
それだけで、こんなに心が揺れるなんて思わなかった。
けれど彼は、そんなこちらの戸惑いを知ってか知らずか、
穏やかな微笑みを浮かべて言った。
「緊張されてますか? 大丈夫ですよ、ゆっくりいきましょう」
その言葉に、不思議と肩の力が抜けた。
バスローブに着替え、タオルをかけられたままベッドに横たわると、
彼の手が、ふくらはぎのあたりにそっと触れた。
温かく、しなやかな指。
押すでもなく、撫でるでもなく、
まるで“会話”を始めるような、探るような優しいタッチだった。
「冷えてますね。お疲れ、溜め込んでる感じです」
言葉と一緒に、手が膝の裏へと動く。
そこに何かを感じたわけじゃない。
でも、なぜか呼吸が少し浅くなったのを、自分でわかってしまった。
年下の彼が、
自分の身体に触れている。
その事実だけで、じんわりと奥が揺れる。
「こうされるの、好きですか?」
問いかけは、あくまで自然だった。
マッサージ師としてのプロの言葉。
なのに、それがどこか“試されている”ようにも聞こえて――
私は、曖昧な笑みでごまかすしかなかった。
彼の手は、ゆっくり太ももに向かって動いていく。
まだタオルの上から。
それでも、その熱はまっすぐに伝わってきた。
言葉にできない感覚。
触れられていない場所まで、
なぜか火照っていくような不思議な感覚。
「少しだけ、タオルをずらしてもいいですか?」
その言い方が、あまりに丁寧で――
私はなぜか、許してしまった。
彼の手が、内もものきわをなぞったとき、
小さな震えが背中から抜けた。
それは、くすぐったさではなかった。
どこか懐かしいような、でもまだ知らない感覚。
「年上の女性って、肌が柔らかいですね」
「こうして触れてると、時間を忘れます」
そう言う声は、冗談のようで、どこか真剣だった。
私はその視線から逃げるように、目を閉じた。
でも逃げた先には、彼の呼吸が近づいていた。
耳元でふっと吐かれる息。
肩に落ちる気配。
そのどれもが、やけに深く体の奥に残っていく。
不意に、彼の指が手のひらを重ねてきた。
「こうしてると、…なんだか、もっと触れてみたくなりますね」
その声に込められた熱は、
ぎりぎりの境界線を、確かにくすぶらせた。
けれど彼は、それ以上を求めてこなかった。
肌の奥に火をつけたまま、
そっとタオルを整え直すと、
「また来てくださったら、続きを」とだけ言った。
その余韻が、帰り道ずっと、指先に残った。
私はこの夜、
一度も唇を重ねられていない。
けれど――
彼の手のひらだけで、
女の部分が、そっと、目を覚ました気がしていた。
