金曜の夜、繁華街の居酒屋で開かれた会社の歓迎会。
部下と乾杯を交わしながら、私は上司として“きちんと笑う役”を演じていた。
「〇〇さん、なんか今日、雰囲気ちがいますね」
若い後輩の何気ないその言葉に、心の奥がざわめいた。
違ってるのは、たぶん…酔いのせいじゃない。
今日、朝からずっと、胸の奥がざわついていた。
何かが足りなくて、
何かに触れてほしくて――
23時前。タクシーを降りた私は、マンションの前で立ち止まった。
帰りたくなかった。
帰っても、誰もいない。
メイクを落とし、スーツを脱ぎ、
“誰にも見られない女”になるのが、なぜか怖かった。
「このまま、誰かに抱かれたら、楽になれるのに」
ふと零した言葉に、自分で驚く。
でもその瞬間、私の指はスマホを開いていた。
“女性用風俗 セラピスト 即日予約”
“衝動”という言葉がぴったりだった。
なのに、それはどこか、とても自然な選択のようにも思えた。
部屋の明かりを落とし、口紅を塗り直した。
鏡の中の私は、いつもより頬が赤く、目が潤んでいた。
ピンポーン、と静かに鳴るチャイム。
迎え入れた男は、スーツ姿で、背筋がすっと伸びていた。
「お疲れさまでした。……お酒、入りましたか?」
その問いに、私は軽く笑って答えた。
「少しだけ。……でも、今日はちゃんと、覚えていたい」
ソファに並んで腰掛けると、彼の指がそっと私の髪を耳にかけた。
「今日は、どうされたいですか?」
「……“女として扱われたい”って思ったんです。
酔った勢いかもしれないけど、
このまま朝まで、誰にも見られずに、
“私を、女のままでいさせて”って思ってしまって」
彼は言葉を挟まず、
そっと私の手を取り、指先に口づけた。
その一瞬で、
背筋に鳥肌が立った。
「じゃあ、始めましょうか。
……あなたが“抱かれたかった”夜を、叶える時間を」
照明を落とし、指先で撫でられる鎖骨。
ゆっくりと肌が熱を帯びていくのが、自分でもわかる。
「ここ、敏感ですね」
彼の声が少し低くなり、
私は思わず目を閉じた。
服を脱がされるのではなく、
“そっとほどかれていく”感覚。
理性を越えて、
気づけば腰が浮いていた。
「もう……止められない」
喉の奥で囁いた私の声に、
彼は何も言わず、首筋に熱い吐息を落とした。
快感は静かに、でも確実に全身を支配していく。
ゆっくり、じわじわと――
焦らされ、撫でられ、誘われて、
身体の奥の奥が、ほどけていく。
こんなにも丁寧に、
誰かに“欲される”ことを、
私はもう何年も忘れていたのかもしれない。
「……あなたが、“女でいたい”って言った意味、わかりました」
彼の手が私の腰を支えながら、そう呟いた。
「今夜は、あなたの欲望が一番大事です。
……それを、ちゃんと受け止めさせてください」
酔いは、とうに醒めていた。
でも、身体は彼の手に、
記憶を刻むように、素直に応えていた。
「次の飲み会が、また金曜だったら……」
私はタオルにくるまりながら言った。
「……また呼んでも、いい?」
「もちろん。
そのときも、あなたの衝動を、大事にします」
自分を大切にしてくれる人。
じゃなくて、
自分を“女として”大切にしてくれる人。
それが、今の私にとって、
いちばん欲しかったものだった。
