地方都市の出張。
夜の予定は空白。
食事に誘ってくれる同僚もいない。
同じホテルの、他の部屋にいる上司が嫌いで助かった。
「せっかくだから、ゆっくりしよう」
そう自分に言い訳して予約した“オイルマッサージ”。
風俗のカテゴリに入っているとは、知っていた。
でも、“ただのマッサージ”で終われる気がした。
いや、終わらせるつもりだった――あのときは。
ピンポーン、とドアが鳴る。
スーツのまま、髪をほどかず迎えた私を、
彼は少し驚いたように見て、それでもにっこり笑った。
「こんばんは。ご指定のコース、60分ですね」
低い声と、整った顔。
どこかで会ったことのあるような、優しい目。
「初めて…なんです。こういうの」
そう言った私に、彼は静かにうなずいた。
「初めての方は“決めてくる”んです」
「触れていいのはここまで。キスは禁止。最後まではしないって」
彼はそう言いながら、オイルを両手に広げ、
ジャケットを脱がせる私の肩をそっと撫でた。
「でも、途中で変わるんです。女の人のほうから、ルールを」
シャワーを浴びたあと、バスローブ姿になった私を、
彼はホテルのベッドにそっとうつ伏せに寝かせた。
滑らかなオイルが背中を伝い、
指が、掌が、肩甲骨を撫で、腰を包む。
「仕事、お疲れですね」
そのひとことが、涙が出そうなほど優しかった。
マッサージは本物だった。
でも、気づけば腰が反っていた。
太ももを揉まれるたびに、喉の奥が熱を帯びる。
「うつ伏せから、仰向けになりますか?」
首を小さく縦に振ると、
彼が手を添えて私をそっと仰向けに返した。
バスローブの前が、わずかに開く。
胸元の谷間に、彼の視線が落ちたのを感じた。
でも――私は閉じようとしなかった。
指が、鎖骨をなぞる。
胸の上を滑り、バスローブの間に入り込む。
触れた指の熱に、肌が敏感に反応した。
「ここ、気持ちいいですか?」
囁く声と、指の動きが同時に落ちる。
乳首に触れた瞬間、カラダがびくんと跳ねた。
「……ダメ、そこは……」
そう言いながら、脚は閉じきれなかった。
ショーツの上から、指がなぞる。
じんわりと滲む熱が、彼の指先を誘ってしまう。
「嫌だったら、止めます」
でも、私は止めなかった。
カラダが欲しがっていた。
名前も知らないこの男の手を。
ショーツの中に指が入ると、
あっけないほど簡単に濡れていた。
「ここ……もう、こんなに」
囁かれて、胸がきゅんと鳴る。
唇が触れたのは、首筋だった。
そこから耳へ、頬へ、そして――唇へ。
キスだけは、しないつもりだった。
だけど、もう無理だった。
舌が触れた瞬間、心が裏返るような快感が走る。
そして、彼が覆いかぶさってきた。
脚を開かされ、
熱いものが、ゆっくりと、
私の中に入ってくる――その一瞬、
思考はすべて、白く飛んだ。
奥まで届くたび、
「やだ、深い……」と小さく呻いた。
彼は動きを緩めない。
強く、深く、甘く、私を責め立てる。
「すごく感じてる。声、我慢しないで」
濡れた音がベッドの上に響き、
腰が打ちつけられるたびに、
快感が波のように押し寄せてくる。
自分がどんな顔で喘いでいるのか、もうわからなかった。
何度も、何度も、
波にのまれて、私は果てた。
ベッドに倒れこむ私の髪を、
彼がそっと撫でる。
「今夜は、奥さんじゃなくてよかったですね」
その言葉に、思わず泣きそうになった。
女として、抱かれた夜。
あの出張ホテルのベッドで、
私は確かに“女”として生き返った。
