「先生ってさ、本当は甘えたいんじゃないの?」
教室の片隅で、何気なく言われたそのひとこと。
笑って返したつもりだったけど、胸の奥がざわついた。
白いシャツ、膝丈スカート、ぴちっとまとめた髪。
ちゃんとした“大人”を演じるために、私はどこまで自分を閉じ込めてきただろう。
それでも、
どこかで誰かに見抜かれてしまった気がして、
その日はまっすぐ帰る気になれなかった。
予約したのは、女性専用の出張リラクゼーション。
“癒しを目的としたマッサージ”と書いてあった。
でもその奥に、言葉にならない期待を詰め込んだ自分がいた。
ホテルの一室。
ノックの音とともに、彼は現れた。
どこか落ち着いた雰囲気の、優しい目をしたセラピストだった。
「先生…ですか?」
私のままならない服装を見て、彼が微笑む。
「学校帰り、そのまま来ちゃいました」
わざと軽く言ってみたけれど、
制服のままという事実が、自分でも少し――いや、だいぶ、刺激的に感じていた。
マッサージが始まると、
彼の手は驚くほど丁寧で、
触れるたびに、奥に溜めていたものが少しずつほどけていった。
「肩、ずいぶん張ってますね」
「普段、頑張りすぎてませんか?」
その問いかけは、肌ではなく心に届いた。
言葉にできない疲れが、指先に溶かされていく。
まるで、身体の内側にある“女としての感情”までなぞられているような気がした。
彼の手が、首筋から背中、腰へと滑っていく。
シャツ越しのやさしい圧が、
どこか眠っていた感覚をじんわり呼び覚ましていく。
私はそのとき、自分が無意識に、
シャツのボタンを一つ外していたことに気づいた。
彼は何も言わず、
けれど少しだけ手のひらの動きをゆっくりにした。
言葉はなくても、
「気づいていますよ」とでも言うように。
脚に触れられたとき、
心の奥に小さな熱が生まれた。
それはじわじわと膨らみ、
太ももに指が触れた瞬間、
ふいに喉が鳴った。
「気持ちいいですか?」
彼の声は、いつもと変わらないやさしさだったけれど、
どこか深いところを突かれたような気がして、
私は静かに目を閉じた。
まるで“何かを許してしまった”合図のように。
布の上から伝わる熱。
直接じゃないのに、こんなに感じてしまうのはなぜだろう。
制服のスカートの中に、
自分でも知らない渇きが広がっていく気がした。
触れられていない場所が疼く。
でも触れてほしいとは言えない。
ただ、じっと彼の手に身を任せて、
“まだ来ないその先”を、密かに期待する。
彼の指がピタリと止まる。
見下ろす視線と、見上げる私の目が重なる。
「先生、今日はここまでにしますか?」
その問いに、
私はほんの一瞬、言葉を失った。
続けて、とも言えない。
やめて、とも言えない。
でも、カラダの中では何かが、
もうとっくに始まっていた。
彼がゆっくりと私のシャツの襟を戻すと、
その指が、喉元でふわりと止まった。
「また、来てください。今日の続き…したくなったら」
その一言に、
カラダのどこかがきゅっと疼いた。
その夜、私は一人で帰った。
でも、指先の感覚はしばらく消えなかった。
“触れられなかった”ことが、
こんなにも残ってしまうなんて、知らなかった。
