「その夜、私は“女”に還った」—15人の女性、15の秘密の夜 第1話 指先がほどく、あなたの嘘

指先がほどく、あなたの嘘

結婚してから、何年目だったか思い出せない。
キッチンに立つ背中も、夜に交わすキスも、
習慣の中に溶けて、もう何も感じなくなっていた。

「あなた、今日は何時に帰るの?」
朝、夫に投げかけた言葉は、
“今夜、私は別の誰かに抱かれる”という予告にさえ思えた。

待ち合わせのホテルの部屋。
あなたはまだ、ベッドの端に腰をかけたまま、
手を膝に置いて、動けずにいた。

「緊張してますか?」
彼の低い声が、首筋を撫でるように響いた瞬間、
指先がピクリと震えた。

「……バレませんよね、こんなこと」
言葉にした自分の声が、ひどく甘く、
まるで“バレたい”と願っているようで、滑稽だった。

服の上からなぞられる指が、
ボタンのひとつひとつを外すたびに、
あなたの「理性」も音を立ててほどけていく。

下着の上から優しく撫でられたとき、
「奥さん、ここ……もう、温かい」
そう囁かれて、全身がびくりと震える。

恥ずかしい。けれど、止まれない。
夫には決して見せられない顔が、
鏡の中で紅く火照っていく。

柔らかい舌が、太ももの内側をゆっくりと這う。
触れていないはずなのに、もうそこは濡れていた。
「こんなに、寂しかったんですね」
そう言われた瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。

あなたの孤独は、肌に現れていた。
欲しがっていたのは、愛なのか、刺激なのか。
その境界すら、もうどうでもよかった。

何度も昂ぶり、何度も果てて、
気がつけば、腕の中で静かに眠っていたあなた。

「帰りたくない……」
そのつぶやきは、まるで少女のように弱く、
けれど、その夜のあなたは確かに、
“女”として、誰よりも美しかった。