結婚してから、何年目だったか思い出せない。
キッチンに立つ背中も、夜に交わすキスも、
習慣の中に溶けて、もう何も感じなくなっていた。
「あなた、今日は何時に帰るの?」
朝、夫に投げかけた言葉は、
“今夜、私は別の誰かに抱かれる”という予告にさえ思えた。
—
待ち合わせのホテルの部屋。
あなたはまだ、ベッドの端に腰をかけたまま、
手を膝に置いて、動けずにいた。
「緊張してますか?」
彼の低い声が、首筋を撫でるように響いた瞬間、
指先がピクリと震えた。
「……バレませんよね、こんなこと」
言葉にした自分の声が、ひどく甘く、
まるで“バレたい”と願っているようで、滑稽だった。
—
服の上からなぞられる指が、
ボタンのひとつひとつを外すたびに、
あなたの「理性」も音を立ててほどけていく。
下着の上から優しく撫でられたとき、
「奥さん、ここ……もう、温かい」
そう囁かれて、全身がびくりと震える。
恥ずかしい。けれど、止まれない。
夫には決して見せられない顔が、
鏡の中で紅く火照っていく。
—
柔らかい舌が、太ももの内側をゆっくりと這う。
触れていないはずなのに、もうそこは濡れていた。
「こんなに、寂しかったんですね」
そう言われた瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
あなたの孤独は、肌に現れていた。
欲しがっていたのは、愛なのか、刺激なのか。
その境界すら、もうどうでもよかった。
—
何度も昂ぶり、何度も果てて、
気がつけば、腕の中で静かに眠っていたあなた。
「帰りたくない……」
そのつぶやきは、まるで少女のように弱く、
けれど、その夜のあなたは確かに、
“女”として、誰よりも美しかった。
