朝になっても、私はまだ欲しがっていた

朝になってもまだ欲しい

カーテンの隙間から、やわらかい朝の光が差し込んでいた。
時計の針は、7時を少し過ぎたところを指している。

ホテルのシーツは、まだところどころ皺を抱いたまま。
昨夜の出来事を、そのまま記録しているかのように。

私は、その中央にうつ伏せで身体を横たえていた。
掛け布団は足元まで落ちていて、
背中に触れる空気の冷たさが、妙にリアルだった。

 

彼の手は、まだ私の腰に添えられている。
目を覚ましているのか、寝ているのか。
呼吸はゆっくりで、温かい。

腕の中にいる安心感と、
このままでは終われないという“未完の感覚”が、
身体の奥で重なり合っていた。

 

「……もう朝なのに」
ぽつりと、誰に言うでもなく呟いた声に、
彼がそっと反応する。

「うん、朝だね。でも、まだ夜みたいな顔してる」

彼の声は低くて、眠たげで、
なのにその言葉の端に、微かな熱を帯びていた。

 

肌の上を、指が一筋だけなぞっていく。
背中から肩、鎖骨の下へ。
まるで、すでに知っている地図をもう一度確かめるような動きだった。

「昨夜、足りなかった?」

その問いに、私は返事ができなかった。
だって、“足りていた”のに、
今またこうして欲している自分がいたから。

 

脚が自然と動いて、
彼の脚にそっと絡む。

腕の中に閉じ込められるような形で、
私は自分の体温と彼の体温が、また混ざっていくのを感じていた。

もう何も新しいことをしていないのに、
触れられているだけで、
身体がまた反応していく。

 

「……やめといたほうがいいよね」
「朝だし、帰らなきゃ」

そう言葉では言いながら、
私は彼の胸元に頬を寄せていた。

言葉と身体の本音が、
またズレていく。

 

彼の手が、静かに私の髪を撫でる。
そのやわらかい動きが、
なぜか“続き”の始まりの合図のように思えてしまう。

「帰る前に、もう一回だけ、欲しがってみたら?」

その声は優しくて、
でもどこかで、すでに私の反応を読んでいた。

 

欲しがることに、
こんなにも“時間の感覚”が関係してくるなんて知らなかった。

朝になれば、冷めると思っていた。
夜のうちに終わると思っていた。

でも――
私の中の“女”は、まだ終わっていなかった。

 

昨夜よりも静かで、
昨夜よりも、濃密な空気の中。
私はもう一度、彼の手に身体をゆだねた。

何かを始めるような、
何かを終わらせないまま、抱きしめられる。

朝なのに、
“まだ欲しい”と思ってしまったことが、
この夜のいちばん深い官能だったのかもしれない。

 

カーテンの隙間から、光が一筋――
私の背中をなぞるように差し込んでいた。