「今日、すごく肌がやわらかいですね」
そう言われたのは、施術が始まってすぐだった。
――そりゃそうよ。
だってさっきまで、銭湯にいたんだから。
体も髪も、じっくりと時間をかけて整えたあと。
まっさらで、清潔で、何も身にまとっていないような感覚。
そんな“軽さ”を残したまま、私はこの部屋にいた。
「湯上がりの女性って、特別な色気があるんですよ」
「肌がゆるんでるぶん、心もやわらかくなってる」
そんな言葉をさらりと囁く彼は、
マッサージ師であるはずなのに、
なぜか“身体より先に心をほどいてくる”。
私は、ほんの少しだけ笑ってみせた。
でも、タオルの下にある体は、
さっきからずっと、ゆっくりと熱を帯びていた。
オイルが肌に乗せられ、
滑るように広がっていく。
ふくらはぎ、太もも、膝の裏。
それだけのことなのに、
さっきまでの銭湯では味わえなかったような、
深くて重たい体温が、じわじわと身体の中に染みてくる。
「お湯では流れない疲れって、ありますよね」
彼の声が、背中に響いた。
“あぁ、私は今、女として触れられてるんだ”――
その自覚が、静かに胸を満たしていく。
うつ伏せから仰向けになった瞬間、
タオルの下の空気が変わる。
彼の手が、慎重にお腹の上へと置かれた。
手のひらの温かさが、ゆっくり広がる。
それはまるで、感情の温度を肌から伝えてくるようで。
「ここ、呼吸が集まる場所なんですよ」
「触れると、気持ちが落ち着いていくんです」
そう言いながら、
彼はごくゆっくりと、下腹部にかけて円を描いていく。
その軌道に、私の鼓動が絡まっていく。
タオルの重みが、やけに意識されていた。
その下で、何も身につけていないこと。
彼は知っている。私も、知っている。
でも、お互いに何も言わない。
その“言わなさ”が、もっとも刺激的だった。
「肌の声って、こういうとき、いちばん素直になるんです」
彼の指が、肋骨の下から脇腹をゆっくり撫でる。
少しでも力を入れたら、声が漏れそうなほどに、
その触れ方は甘かった。
私は何も言っていない。
でも、彼の手はまるで私の奥にある“望み”に応えるように、
ひとつずつ、スイッチを押していく。
それは焦らすようでもあり、
抱きしめるようでもあった。
お湯では流れなかった“女の欲”が、
今、皮膚の奥から浮き上がっていく。
「このまま、眠っちゃいそうですか?」
彼が囁いた声は、あまりに静かで、
でも、その静けさの裏にある熱は明確だった。
私は眠りたくなかった。
この感覚を、もう少しだけ――
タオルの下で、味わっていたかった。
銭湯で洗い流したはずのものが、
この部屋で、逆に滲み出してくる。
私は今夜、
“湯上がりの自分”よりも、
はるかに湿った女になっていた。
