「鏡があるお部屋なんですね」
入室してすぐ、私は壁一面に貼られた大きな鏡に目をとめた。
「落ち着きませんか?」
そう尋ねる彼に、私は曖昧な笑みで応えた。
でも本当は――
どこか、期待していたのかもしれない。
“いつもの私”じゃない私を、
今夜は見てみたいと思っていた。
施術用のガウンに着替え、
仰向けに横たわると、天井にもまた、鏡があった。
「ちょっと照れますね」
そう言った私に、彼はそっと微笑んで言った。
「たまには、自分がどう感じてるのか、目で見て確かめてみるのも…いいと思いますよ」
その言葉に、どこか火照りが走った。
彼の指が、足首から膝へ、そして太ももへと流れるように動く。
温められたオイルが肌の上を伝うたび、
そこに自分の「表情」が鏡の中に映ることに気づいた。
脚が、少し震えていた。
唇が、かすかに開いていた。
胸の上下が、呼吸に合わせて、早くなっている。
――これが私?
鏡に映るその姿に、
私は妙な感覚を覚えた。
恥ずかしいのに、目が離せない。
どこかで“見ていたい”と思ってしまっている。
「感じてるときの顔って、自分じゃ見えないですもんね」
彼は、囁くように言った。
そして指先を、お腹のやわらかなラインにすっと沿わせて、
下腹部へ――ぎりぎりまで。
「ここのあたり、反応が素直ですね」
「触れていなくても、身体はちゃんと、欲しがってます」
自分でもわかっていた。
何も言わずに、脚がすこし開いてしまっていたこと。
鏡の中で、私は“求める身体”になっていた。
「ここ、少し強めに流していきますね」
腰骨のすぐ脇に、親指が沈む。
ぐっと押し出された瞬間、
息が喉の奥でつまった。
その瞬間の自分の顔を、
鏡が余さず映していた。
眉がわずかに寄り、目が潤み、
唇が――濡れたように開いている。
まるで、
誰かに咥えてほしいと願うような、誘う表情だった。
彼の手は、鎖骨へ。
そこから胸の谷間を避けるように滑り、
指先が首の横をなぞった。
「ここ、触れると心まで反応する人、多いんですよ」
「あなたも……そうですね」
私は、目を逸らした。
でも、鏡の中の私は、しっかりと彼を見ていた。
こんな顔、誰にも見せたことがない。
けれど今、私は鏡に向かって――
女である自分を晒していた。
「鏡に映るあなた、すごく綺麗です」
その声が、
どんな褒め言葉よりも、
深く、奥に響いた。
触れられたことより、
映されたことのほうが、
どうしようもなく興奮している。
その事実に気づいてしまった今、
もう私は、“自分”からも逃げられない。
「また、自分を見に来てください」
彼がそう言って微笑んだとき、
私はうなずくしかなかった。
鏡越しに出会った“女の私”が、
今もなお、身体の奥でうずいている。
