ホテルの高層階、“わたしだけ”を見つめてくれた男

ホテルの高層階、“わたしだけ”を見つめてくれた男

都心のホテルの最上階。
フロントで鍵を受け取ると、深夜の静けさが、肌に優しく降りてきた。

部屋に入り、カーテンを開ける。
窓の外は、無数の光が瞬く夜景。
でもそれよりも眩しいのは、
鏡に映った“自分だけの時間”だった。

 

女性用風俗を利用するのは、これで二度目。
なのに――この夜だけは、どこか特別だった。

理由なんていらない。
ただ「見つめられたい」と思った。
身体じゃない。肩書きでもない。
“女”として、ただ見つめられる時間が欲しかった

 

ノックの音。
ドアを開けると、静かな佇まいの男が立っていた。

「こんばんは。……緊張、されてますか?」

「いえ……今夜は、自分の輪郭を感じたくて」
私の言葉に、彼は一瞬だけ目を細めた。

「いいですね。じゃあ、今日は“あなた”を丁寧に見せてください」

 

ベッドに腰掛け、
彼は一切触れずに、私を見つめてきた。

“服を脱がされる前に、心が脱がされていく”――
そんな視線だった。

「そのままで、綺麗です」

「……まだ、何もしてないのに?」

「してないからこそ。
 あなたがあなたであるだけで、
 こんなにも惹かれるって、知ってほしいんです」

 

その言葉が、喉の奥に熱をつくった。

「触れてもいいですか?」

「……うん」
頷いた瞬間、彼の指先が、私の髪をすくいあげた。
耳の後ろ、首筋、肩先――
まるで筆先のようなタッチが、じわりと肌を濡らしていく。

彼の瞳が私の胸元を見つめているのに、
いやらしさよりも、
“渇きを満たされていく安堵”のようなものを感じた。

 

「ちゃんと見てるんですね、私のこと」

「ええ。あなたがどんなふうに呼吸して、どんなふうに反応して、
 どこで一番“女”になるかを、全部見逃したくないから」

 

ゆっくりと、ドレスのファスナーが下りる。
彼は目を逸らさない。
隠そうとした手を、彼がそっと止める。

「恥ずかしいなら、それごと受け取ります。
 それも、あなたの魅力だから」

その言葉に、私は目を伏せて、
それでも脚を少しだけ開いた。

 

「ここが、今日のあなたの“中心”ですね」

彼の視線と指先が、
私の奥に静かに落ちてくる。

じっと、見られている。
見つめられることで、
私の欲望が、輪郭を持ちはじめる

 

「……あなたに見つめられるだけで、
 わたし、全部、ばれてしまいそう」

「バレてもいいんです。
 むしろ、バレたがってる顔してる」

 

視線だけで、
指先だけで、
身体が熱くなることを、私はこの夜、初めて知った。

何もされていないのに、
呼吸が深くなり、
背筋が震える。

触れられない快感――
それが、どんな甘美なものかを。

 

最後に彼が言った。

「あなたは今日、
 “触れられる前から感じられる女”だった。
 それを、ちゃんと覚えていてください」

 

シャワーも浴びず、
私は裸のままベッドにうずくまった。

触れられたわけじゃないのに、
全部、包まれた気がした。

見つめられることは、
“存在をまるごと肯定される”ことだった

今夜だけ、
わたしは、ちゃんと“女”になれた。