「仕事では、いつも決めるのは私なんです」
初対面の彼に、そんなことを言ってしまったのは、
たぶん――どこかで、決めてもらいたかったから。
週に一度のリフレッシュと称して予約した“セラピスト”との時間。
彼のプロフィールを見て「年下なのに落ち着いている」と思ったのが、決め手だった。
でも実際に目の前に現れた彼は、
思っていたよりもずっと、大人の顔をしていた。
「今日は、何も考えなくていいようにしますね」
その一言だけで、心の芯がふわりとほどけるのを感じた。
ベッドの端に腰を下ろした私に、彼はそっと膝をつき、
両手で私の足元に触れる。
「力、入ってますね」
その声が低くて柔らかくて、
まるで水の中にいるように、全身の感覚が沈んでいった。
タイツを脱がせる手の動きも、決して急がない。
でもそのペースが、逆に私の期待をゆっくり育てていく。
「どこか、触れてほしい場所ってありますか?」
そう訊かれたとき、
私ははっとした。
“触れてほしい場所”――
そんなこと、誰にも訊かれたことがなかった。
「……任せます」
そう答えたのは、彼のリードを信じてみたくなったから。
その言葉を聞いた彼の瞳が、ほんの少しだけ鋭くなった。
指先が、太ももから、腰へ。
ゆっくり、じっくりと撫でながら、
私の“受け身の時間”を丁寧に作っていく。
「僕の指、熱くないですか?」
「……うん。熱い。けど、気持ちいい」
その言葉をきっかけに、
彼の動きがほんの少しだけ、積極的になる。
キスひとつさえ、
まるで“許可をもらった”ことを確かめるように深くなった。
首筋に落ちる唇。
鎖骨のくぼみに沿う舌の温度。
それだけで、私は息が漏れる。
「そんなに反応するなんて……意外です」
彼が小さく笑う。
その声に、なぜか悔しくなって、
彼の胸に手を伸ばしかけた瞬間――
「今日は、僕が全部、決めます。
だから、あなたは……なにも、しなくていい」
その言葉が、
甘く、でも確かに“命令”のように響いた。
普段の私なら、誰かにコントロールされるのは苦手なはずなのに、
この瞬間だけは、抗う気持ちが起きなかった。
むしろ、心の奥でずっと待ち望んでいたような、
そんな気さえした。
下着越しに撫でられる腰骨。
吐息だけで、
身体の奥がじわじわと滲んでくる。
「ねえ……どこまで、知ってるの?」
そう訊いた私に、彼は顔を近づけ、
耳元で囁いた。
「あなたが、どこをどう触れると震えるか。
もう、全部わかってきました」
その自信に満ちた声が、
なぜかとても、心地よかった。
年下のくせに、って思うどころか――
むしろ、安心して“任せられる”誰かを待っていた自分に気づいてしまった。
身体が彼のリズムに合わせて揺れていくうちに、
私の中の“主導権”は、
完全に、彼の手のひらの中にあった。
でも、それが……たまらなく心地よかった。
終わったあと、彼がタオルで私の髪をそっとまとめ、
水を手渡してくれたとき、
私はもう、自分の顔が“女”の顔になっているのを感じた。
「……また、お願いしたいです」
その言葉に、彼はゆっくり微笑んだ。
「次は、どこまで“委ねられるか”、楽しみにしてますね」